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忘却の森 

上清水賞 というものにまたしても参加する。
前編である。



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「忘却の森 前編」




もう既に痴呆がかなり進んでいた祖母が、こっそりと内緒話のように死ぬ間際に言ったのだ。

きよか、あんたの名前と同じ島があるんだよ。
でも、そこには行っちゃいけないよ、約束しておくれよ。




両親は物心つくときには既になく、ずっと祖母との二人暮しだった。身寄りも他にないため、その島を知るかと尋ねることができる者もいなかった。

行くなと言われれば、行ってみたくなるのが人情というものだろう。その後眠るように息を引き取った祖母との言い付けに背くことになるが、私は清香島について調べはじめた。



地図にも乗らないような、伊豆半島の離島。
それが清香島だった。

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島にまつわる伝説は昔からいろいろあった。
江戸時代には当時の幕府の金庫番が徳川の財宝を隠したという話があり、その後、海賊の根城になったという噂が広まっていた。
昭和に入ってからは、原因不明の熱病にかかり熱に浮かされたまま伝家の宝刀で家族を斬り殺したその地方の豪商が、一族のものによってその島に建てられた屋敷に幽閉されていたという話も伝わっている。

しかし、現在では何もない静かな島になっていて、最近では意外なことに観光客も訪れていた。
というのも、目立つ建造物といえば、島の中央に建っている古い洋館を改良したホテルくらいで(このホテルが、件の豪商が閉じ込められていた屋敷だったという噂もある)、手つかずの自然が多く本土ではあまりお目にかかれない動植物が生息しているため、ただひたすら自然を愛でながらのんびりしようとする人々の関心をひいたからであろう。
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検索したサイトよりの引用である。

観光客が訪れるような島なら、行っても問題あるまい。
私は有給休暇をとって、その島に向かった。


一日に2便しかない船を降りる。2月という時期柄か、平日だからか観光客らしい姿は見当たらなかった。

港から海岸沿いにへばりつくように連なる小さな集落を抜けてしばらく歩くと、鬱蒼とした暗い森を背負った古い洋館があらわれた。反対側は切り立った崖になっている。ヒッチコックの映画を思わせるような外観。昔は白かっただろう壁が古びて色あせ、手入れがされていないように自由に伸びた蔦が半ば覆っている。
これが現在ホテルになっているという洋館だ。
大きな門をくぐり、敷地内へ入る。

なぜか懐かしい感じがした自分に戸惑う。

いっちゃいけないよ。

祖母の声を振り切るように足を進めた。




「サヤカさま……?!」

見知らぬ老婆が私を見て、わなわなと震えていた。不審に思い、私が傍に寄ると老婆は糸が切れたようにそこにうずくまった。

老婆を抱えるようにして洋館の中に入る。支配人らしき男が出迎えてくれ彼女を慌てて引き取ろうとしたが、気になったのでロビーで彼女が落ち着くのを待った。

中は想像以上に豪華な建物だった。玄関ホールからロビーは三階までの吹き抜けになっており、大きなシャンデリアがふたつさがっている。上階へは飴色に鈍く光る磨きこまれたゆるやかな螺旋階段がロビーぞいに伸びている。ロビーに並ぶ椅子もいかにも高価そうなアンティーク。同じくアンティークの飾り棚に並ぶビスクドールもかなりの年代物だろう。高級ホテルに全く遜色ない。例えば鹿鳴館などはこんな感じかもしれない。宿泊代からは考えられない。


ややして老婆は落着き、自分のことを語りだした。昔はこの洋館に住み込みで働くメイドだったそうだ。主人一族の直系が耐え、島外に住む分家の者が20年前にホテルに改装した後もそのまま従業員として残っている。


「サヤカさまは本家の、最後のお嬢様です。13の歳に神隠しにあわれて……。お客様によく似てらっしゃいます」

ロビーにかけてあった肖像画を見たが、自分ではそれほど似ているとは思わなかった。黒髪を胸の辺りまで伸ばした少女が、眉を寄せるようにこちらを見下ろしている。せっかくの肖像なのだから笑えばいいのに。そんなことを無意味に思った。目元のきりっとした、なかなかの美少女といえる。

「サヤカさまが神隠しにあった後、すぐに身体が弱かったお兄さまが亡くなられて。17歳でしたか……仲のよい兄妹でいらっしゃった……おふたり並ばれている姿はまるでおひなさまのようでしたよ。お兄さまと反対で、サヤカさまは元気のいいお嬢様でした……ほんとうにどうしてこんな……」

涙を流す彼女に、兄ではなく妹に似ているんですね、と念を押す。複雑な気分だ。
もしや祖母こそ、そのサヤカではと思ったが30年前のことだと言う。現在生きていれば43歳ということになるから、それでは歳があわない。

30年前。
私が生まれた歳だ。
また奇妙な感覚が襲う。

もっとその神隠しのことを知りたいときいたが、彼女は食堂のメイドで当主たちとは直接話すことはなくそれ以上のことは知らないそうだ。また、当時のことを知る者はもうほぼいないと彼女は続けた。島一番の実力者だった洋館の当主も、集落の長も20年以上前に流行り病で亡くなったそうだ。



彼女に別れを告げ、部屋に通してもらった。古くはあるが大事に使われたのだろう、調度も含め美しい部屋だ。窓からは森と海双方が望める。東京からあまり遠くない場所で、このホテルに宿泊しのんびりすることができるのなら、悪くない。もっと暖かくなれば、花や新緑が美しいことだろう。

まだ陽があるうちに、森をみておくことにした。手付かずの自然が売りの島なのだから、一応それを体感しなくてはならないだろう。

無表情な化粧気のないフロント係に森に何かあるのかきくが、小さな神社がひとつあるだけだそうだ。

「必ず日暮れまでにはお戻りください。足元が危ないですしそれに」

彼女は強ばった顔に笑みらしきものを浮かべた。
「狸が出ますので」




手付かずの自然とはいうものの、西表のようなジャングルではない。何分小さな島の森だ。ぐるりと回ると細い坂をみつけた。登り切ったところに神社があった。何を祭っているのかはわからない。小さいのは確かだが想像していたよりもかなり立派なものだ。しばらく使われていないのか少々さびれた感じもあるが、古い建物だろうから当然かもしれない。

裏手に回ると森がひらけ、海岸線と港の集落を眼下に見下ろすことができた。
しばらくそこに佇み冬の海を眺めていたが……

何かの気配を感じて振り向くと、神社の障子ごしに小さなあかりが揺れている。

人がいるのか?

気付けばもう海が太陽の最後のひと滴を飲み干すところだった。茜色の空はすぐに闇にとってかわられるだろう。
そろそろ帰らねば。


耳を澄ますと、遠くから太鼓の音が聞こえる。
その音がどんどん近付いてくる気がして立ちすくんだ。

笛の音。
祭りばやし……この時期に?
幻聴か?




おにいちゃん




目眩。鈍痛。

…………そして、闇。






                                   後編へ







**********第2回上清水賞テンプレ**********
【ルール】
 2人1組で参加する覆面ブロガー同士の、ミステリィ創作作品によるタッグ戦(ダブルス)です。

  参加の流れは、以下の通り。

  1・一緒に参加するパートナーを探す
  2・トラバ作品の導入部(事件編)を受け持つか、解決編を受け持つか
   、2人で相談して担当を決める
  3・前半部担当者が、この記事にトラックバックする
  4・後半部担当者が、前半部の記事に解決編をトラックバックする

1人目は上清水から出されたお題を踏まえて、舞台となる清香島で
事件を発生させて(謎を提示して)ください。
2人目は、その事件の解決部分を書いてください。
前回と違い、前半部が出揃ってから後半部がスタートするシステムではなく、
エントリー期限中に両方ともTBを完了させてください。
前半・後半の同時TBももちろんOK。

なお、ご参加の際にはタッグチーム名も用意していただければ幸いです。
 
 エントリー期限は本日から3月31日(木曜日)23:59までです。
 
 【審査方法】
 ●巨匠・上清水一三六が自ら最優秀作品を選出。
    その他、場合によっては部門賞もあり。
 
 ●参加条件はすべての覆面ブロガーによるチーム。

  「覆面ブログ」の定義は、通常メーンで記事を書いているブログ以外
のブログ。
そして、書いている人間の正体が通常ブログと同一人物であることが
〝バレていない〟と自分で確信していることです。自分でバレていないと
信じていれば、実際にはバレバレでもかまいません(笑)。

  TB人数制限はありません。原則として1チーム1TBですが、パートナーが
異なる場合には別チームとみなしますので、相手を替えれば何作品でも
TB可能です。また、覆面さえ別のものに着け替えれば、中の人同士が
同じ組み合わせでもかまいません。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペお願いします。

 ★会場   激短ミステリィ    
 http://osarudon1.exblog.jp

**********第2回上清水賞テンプレ**********

こっそりとではあるが、
現在後編執筆者を募集している。

by silent_sea | 2005-03-17 00:18
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